2021年10月18日

小板の雪景色

小板の冬は、おおよそ2月の10日がピークである。12月の終わりから、ひたすら寒さに向かって走り続けた冬将軍が一息をつく、それが2月の10日頃、昔の小板の住民はひたすら体を小さくして冬将軍のご機嫌を損じないようにと、その日を待った。時折、無謀にも「何を」と挑戦して事故につながった人もいて自然は非情である。私の知る限り近辺で雪で死亡の悲劇をもたらしたのが2件あった。かく云う私も死の直前まで追い込まれた事がある。大自然の前には私達は本来は無力なのだ。

私は福井市の生まれで三国港で育った。彼の地も雪国で雪は珍しくないが雪質が違う。標高のせいなのか、海が近いせいなのかは知らないが、小板に帰っての冬は異常な体験だった。人生の殆どを過ごして厳しい小板の冬が私の常識になったのだが。

貴方は雪の結晶をご存知だろう、六角形の見事な結晶を。雪国でなくても雪が降れば見ることができる。ところが雪片に目を凝らすと見る見る溶けてあの見事な造形をはっきりとは確認できない。結晶が六角形であることぐらいは見れるが写真で見る鋭角の美しい造形は運が良くても一瞬で消え去る。

ところがここ小板では中国山地の北面を駆け上がってきた水蒸気が低温と低湿度のお陰で見事な結晶を披露してくれる。その六角形の芸術品は数々の造形の違いを演じて、雪国の寒さを一瞬忘れさせる。寒さの厳しい日は結晶が崩れるのが遅くて次々と現れる造形に時間を忘れたものだ。

貴方が早起きなら新雪の雪面に様々な生き物の足跡を見る。その形で昨夜の動物たちの行動を想像する。雪に覆われた世界は動物たちにとって生き残りゲームの壮絶な戦い、しかし私達人間は足跡から動物を想像し、彼等の行動を想像する。その生き残りゲームの足跡から、こっちも負けられないと気力を振り絞る。静かな早朝の新雪は命の戦いの厳しさを伝えてくる、そんな視点で足跡を見てやってほしい。

早朝、一面の銀世界は雪国ならどこでも同じ、ではない。地形や気候、高度、湿度、温度で様々に変化する。冬も日毎に新しい側面を見せる。それを感じ取るか、取らないかで、貴方の思いも変わるだろう。都会は住みやすい、小板は住むには様々な困難がある、 しかし、目をこらせば貴方の知らなかった一面を持っている、住む住まないは別にして、貴方の知らない小板の自然を見て欲しい、これは都会で育ち、小板で人生を送った老人のささやかな願いである。

2020.12.14 見浦哲弥

 

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