2018年6月18日

足跡

 雪国の朝は足跡から始まる。と言っても人間の足跡ではない、動物たちの足跡である。

新雪に刻まれた足跡は雪国の少年の空想をかき立てた。二つ爪の足跡は猪、2つ揃えて並べるのはうさぎ君、5つ爪痕を残すのは狐君と狸君と貂(てん)の皆さん、足跡の大きさで大体の種類がわかる。油断がならないのが5本爪の大きな足跡、熊君である。冬は冬眠しているはずだから滅多には出会うことのない足跡だが秋口の脂の蓄積が少なかった個体は雪があるのに出張してくる。これは空腹で気が立っているから危険この上もない。昨年の冬の終わりに猪の餌場を荒らしていた。その足跡は山里は平和ばかりではないぞと教えていた。

とはいえ厳寒の早朝の足跡は寒さの中での生物の生き様を伝えてくる。静かな凍りついた空気の中にも生き物の生存競争を伝えてくる。そのささやかな証の一つが足跡である。

しかし、住民が減るに従って足跡も少なくなった。住民の生活残渣も彼等の生き残りを助けていた証だったのかもしれない。ともあれ私の子供時代に乱舞していたウサギの足跡は少なくなった。代わって狸君が増えたようだ。栄養失調で倒れる子狸が例年3―5頭にのぼる。田圃が1/10に減ってカエルや蛇などが激減しているせいで動物性タンパク質の不足が原因らしい。牛の餌は植物性のタンパク質のみだから、いくら盗み食いをしても体力は回復しない。そして死、生きるということは野生でも厳しい。昔は動物の死骸はキツネくんの貴重な餌で人目につくことはなかったのだが、最近はその掃除屋さんの減少で死体の処理は人間の仕事ということに相成った。住民の減少は動物の足跡にも影響を与えている。

2018.3.11 見浦哲弥

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