私は小板の自然の中で生活してきた。従って動物たちの思いがけない行動を見る機会にも恵まれて、生きるということの本質を教えられたことは1度や2度ではない。山国に暮らしで、たまたま出会った彼等達を思い出してみよう。
最初はキジくんの話である。見浦牧場は小さいながら牧畜で生計を立てている。従って牧草の刈り取りは欠くことが出来ない作業の一つである。トラクターを使っての草刈は思いの外に速度がはやい。作業は回り刈りという方式で草地の周辺から刈払ってゆく。その草の中でキジくんが抱卵しているとは思わないでね。そして騒動が起きて気がついた。キジくん抱卵の最中で逃げるのが遅れて、両脚を刈払ってしまったんだ。狂いまわるキジくんを見て私は驚得したんだ。可愛そうでね、卵をおいて逃げなかったんだと、そして機械に刈られてと思ったらやりきれなくなってね、作業を中止して家に逃げ帰ったんだ。暫くして様子を見にいった時は他の動物が格好のご馳走とばかりに持ち去ったあとだった。この事件は私には衝撃でね。以後、トラクターでの草刈は細心の注意を払うようになったのはいうまでもない。
次もキジくんだ。キジは春先の1番草を刈り取る頃にひなを孵す。彼等は平場の60-70センチに伸びた牧草の中が格好の産卵場所と認識して産卵しひなを孵す。勿論彼等を餌食と狙っている動物はキツネを初めとして数多く存在する。しかし、長く伸びて密生している広い牧草畑の中はキジくんにとっては格好の子育ての場所と認識しているらしい。こちらも前回の失敗で草刈りは慎重になって、草刈りの最中も草の異常なゆらぎに注意して作業をする。どの牧草地だったかは忘れたが草の揺れが自然でないのに気がついて、機械の速度を落として慎重に前進したんだ。案の定、ひながいるらしく母親の背中が見えた。ところが周り刈りして草を倒した平地にキツネくんが出現、トラクターは気になるが恰好の餌は見逃せないと刈り跡を走り回って逃げない、どうしてやろかと思ったね。ところがそこへ大きなキジの雄くんが現れた、見事な華やかな肢体を見せてね。それが怪我をしているらしくビッコを引いて羽をだらんと伸ばして、飛ぶのはおろか歩くのもやっとという状態でね。そしてキツネくんと雛たちのいる刈られていない牧草との間で苦しんで見せた。気がついたキツネくん、こちらの方が食べがいがあると目標を転換したんだ。そして雄キジに向かっていった。ところがあと一歩に近づくとキジくん、つらそうに羽ばたいて少しばかり逃げる、逃してはならじと追いかけるキツネ。それを何度も繰り返して雌キジからかなり離れたと思ったら、母鳥に引率されたひな鳥が草の中から走り出て、一目散に薮の中に逃げ込んだ。その姿が消えたのを見て雄キジくん、見事な羽を広げて大空に舞い上がった。それを呆然と見上げるキツネくん。一幕の演劇だったね、命をかけた究極の大芝居だった。
3番目はイノシシだった。放牧場に牛を呼びにいったんだ。夕方の少し薄暗くなっていたね。丘の上から谷間を見たらイノシシ家族の移動中だった。巨大な雄、成人した雌が2頭、そして10頭近くのウリンコ(まだ縦縞があった)の一家族(縞が見えたから、まだ明るかった) 。イノシシかと注目すると向こうも気がついた。雄くん、見上げて私達を確認しても逃げようともしないでこちらをにらみつけてね、ウリンコがヤブに消え、雌たちが消えた後に初めて雄くんがヤブに消えたんだ、悠々とね。私はボスくん、真っ先に逃げると思ったんだ。ところが私達をにらみつけて家族が安全に逃げたのを確認して姿を隠す、感心したね。
私の生涯で印象に残るのは、この3つだ。そして野生の動物でも素晴らしい本性を持つと感心させられたんだ。ところが霊長類の頂点だと教えられた人間の中に、とんでもない奴がいる。この小板のような小さな集落にも酒や博打に溺れて家族を顧みなかった奴がいてね、ロ先だけは正論でね、そして共通の結末は「なして俺は運が悪いのだろう」と、云うことも同じでね。
おなじ山国に住みながら自然から何も学ばなかった人達、私には信じられない。
2019.10.19 見浦 哲弥
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