平常時は週に2―3日訓練に飛来する。かなりの高度を2機が前後して飛行する時は、大抵は新米くんの訓練飛行、前機の上昇や急回転に後機が懸命について行く。
それが日にちが経過するごとに高度化して近くのダムめがけての急降下や夜間のドッグファイトになると新米くんも一人前かと一人合点をする。
ただ時たま谷あいを超低空で高速で走り抜ける。実戦になれば必要な技術かも知れないが、その時の轟音は尋常でない。翼端から水蒸気の白煙を引きながら峠すれすれをかすめた時は、流石に頭を低くした。一瞬ではあるが怖かったね。
この状態が起きると近辺の国際情勢が緊迫しているんだ。最も新聞その他のニュースソースは遅れること数日、それも加工してあってね、あとは想像しかない。
ノーテンキな日本人は日本が敗戦したことを忘れて抗議の声を上げるが、国際情勢はそんな単純なものではない。原因を作った東条さんを神様と信じる国民には理解ができないかもしれないが。
それはともあれ、北朝鮮ではロケット発射や原爆実験で物騒な話が伝わってくる。ところが今回はブラウンルートが静かなのだ。何日か置きに高空で1―2度ドックファイトをするくらい、それも1―2度繰り返すと静かになるんだ。そこで素人が判断する、北朝鮮の行動はブラフだけだと見ぬいたのかなと空を見上げている。
ともあれ小板の空は賑やかだ。ブラウンルートには松江の海上自衛隊の4発機も時折やってくる。2機編隊で悠々と上空を通過して旋回して帰ってゆく。こちらは同じ軍用機でも緊張の程度が違う。
土日の休日に温井ダムの近くから超ミニライトプレーンもやってくる。深入山を一周して帰ってゆくが、シート一枚で何百メートルの下の地上を見ながらの飛行は私には考えるだけで怖い。
小板の上空は商業航空の航路でもある。気象条件のいい晴天に北東の大阪方面からジェット旅客機が白雲を引きながら駆け上ってくる。深入山の上あたりで突如消えて銀色の機体が点となって移動してゆくのだ。南西からも同じように飛行機雲が引かれて深入山で消える。
書物によれば飛行高度に登るためにエンジンをフルパワーにして上昇するために飛行機雲が生じるのだという。
敗戦直前の昭和19年、大阪方面から九州に向けて戦闘機から練習機まで様々な軍用機が上空をとんでいった。赤とんぼと呼ばれていた練習機まで。敗戦前の最後のあがきの特攻機としての移動だったと。
どこにもある小板の空、でも、少し観察を深めれば物語がある。
2016.4.28 見浦哲弥
(注1)
ブラウンルート:米軍の低空飛行訓練ルートの1つ。見浦牧場の上空は、米軍の空中戦訓練空域「エリア567」にも含まれている。
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